以前は「ちょっと散歩に行ってくる」という言葉を意味通りに使っていましたよね。時間に縛られず、スマホも持たず、ただ通り過ぎるさまざまな音に思いを馳せながら、一人で散歩をする。そう、昔はそれが当たり前だったのです。

 

最近では、時間のすべての瞬間を「最大限に利用する」必要性に迫られているようで、「のんびり散歩する」というのは一般的に許容される範囲を超えているように思われます。シャワーを浴びながらタイムマネージメントのポッドキャストを聞いたり、通勤時に「初心者のためのスペイン語」をひたすら練習したり、来週開催される陶芸教室を探したりするのも不思議ではありません。もっとできることがあるのではないかと思い、FOMO(取り残されることへの不安)の無限ループに陥ってしまうのです。しかし、現代生活のスタイルは、実際に生産性を向上させているのでしょうか?そして、すべてをやろうとすることは、本当に私たちを幸せにするのでしょうか?

 

マルチタスク(例「2つの認知的なことを同時に行おうとすること」)は誤謬です。実際には、マイケル・J・フォーミカが言うように、私たちは間違ったレッテルを貼っているのです。「複数の一連のタスクをすばやく連続して処理すること、あるいは、自動化されたタスクとそうでないタスクを混在させること」は別物だとフォーミカは言っています。皮肉なことに、次から次へと研究で証明されているように、このタスク・コンテキストスイッチは、実際には信じられないほど非生産的なのです。人間の脳は、一度に一つのことのみを行うように作られています。マルチタスクを実行している時、生産性が上がっているような印象を受けるかもしれませんが、実際にはより集中して取り組む方が、私たちは生産性において最も恩恵を受けているのです。

 

では、「マルチタスク」が答えでないとしたら、何が答えになるのでしょうか?ティム・フェリスは、ニューヨーク・タイムズ紙の選出するベストセラー本「The 4-Hour Workweek((週4時間だけ働く)」」の中で、「80/20の法則」を提唱しています。80%の生産性は費やした20%の時間から得られ、残りの20%の生産性は80%の時間を消費するという考え方です。極端な言い方ですが、フェリスはいくつかの興味深い提案をしています。何が重要か目的を明確にする、時間を確保するために気が散ることをなくす、マルチタスクをやめる、雑務を外注する、効率ではなく効果を上げることを学ぶ、メールをチェックするのは1日に決められた回数だけにする、重要な20%に集中するなどです。週4時間だけ働くというのは、多くの人にとって現実的ではないかもしれませんが、これらの法則のいくつかを適用することは役に立つと思います。また、週4時間ではありませんが、近年、週4日勤務制の導入が急増しています。従業員の有効性と仕事への満足度は、予定された休憩・回復の時間と関連しているという考えは、広く受け入れられるようになってきています。そして、それには理由があります。

 

作家のトニー・シュワルツ氏は、「より多くのことを成し遂げるための最良の方法は、しないための時間を多く費やすことかもしれない」と言っています。彼の記事「Relax! You'll be More Productive」という記事の中で、「回復の重要性は、人間の生理に根ざしている」と指摘しています。「人間はエネルギーを消費し続けるようにはできていません。むしろ、エネルギーの消費と回復を繰り返すようにできているのです」と述べています。時間をゆっくりと過ごしたり断ち切ることで、生産性のレベルを上げ、仕事のパフォーマンスを向上させることができると考えています。「回復するとき私たちはまさに再生し、仕事がはかどるようになるのです」。

 

絶え間ない自己改善の文化は、より良い人間になるために、常に時間を有効に使うべきだと教えてくれますが、本当にそうでしょうか?心理学者のデボン・プライスは、「Laziness does not exist(怠惰は存在しない)」の中で、自らが課した働かなければならいという勝手なプレッシャーに抵抗するべきだと提唱しています。「今の世の中では、努力すれば報われ、ニーズがあることや限界があることは恥ずかしいことだと考えられています。多くの人が常に過剰にがんばりすぎているのも不思議ではありません。"ノー"と言ったときにどう思われるかを恐れて"イエス"と言ってしまうのです」。しかし、"イエス"と言いたい衝動を抑え、お互いにメリットのある妥協点を探し、セルフケアに気を配ることで、飛躍的な成果を得ることができます。

 

ですから、自動操縦で、常に「やる」「学ぶ」「忙しい」モードでいるのではなく、自分のモチベーションを問うてみてはいかがでしょうか。実際に何が重要なのか?何を達成しようとしているのか?何が喜びをもたらしてくれるのか?そして、仕事の時間をもっと有効に使い、罪悪感を感じることなく、実際に仕事を切り離してエネルギーを回復させるにはどうしたらいいのか?今度、いっぱいいっぱいになったら、一息つこうとあちこち歩き回るのではなく、スマホや頭の中のやることリストをまずは脇に置き、本当の散歩に出てみてはいかがでしょうか。