インスピレーションとは素晴らしいものです。油絵の具を引っ張り出してきて、真っ白なキャンバスを前に新たに始めようという気持ちにさせてくれます。ワクワクしますね。しかし、その一方で、終わりなきクリエイティビティの欠如に陥ったように感じることもあります。どんな職業であっても、クリエイティビティに行き詰まりを感じたり、疲れを感じたりすることはあるものです。では、どうすれば創作意欲が湧くのでしょうか?明確な答えがあるわけではありません。インスピレーションは人によって異なるものだからです。
ピカソのように、創作活動そのものからインスピレーションを得る人もいれば、公園を散歩したり、アート雑誌を読んだり、読書をすることでインスピレーションを得る人もいます。いずれにしても、インスピレーションを得るためには、自分の周りで起こっていること、自分にとって意味のあることに意識的に耳を傾け、注意を払うことが必要です。つまり、今まであまり気にしていなかった事や瞬間に目を向けるのです。あるいは、自分が育った環境や経験したことが、面白い視点を与えてくれるかもしれません。想像力の制約から解放されると、ステキなことが起こります。
例えば、建築家のフランク・ゲーリーとブラド・ミルニッチは、建物を設計する際、意外なところからインスピレーションを得ました。彼らは、1930年代に多くの映画で共演したダンスデュオ、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースからインスピレーションを得て、「ダンシング・ハウス」をデザインしました。当時、その奇抜なデザインが物議を醸しただけでなく、チェコ共和国の政治的変化(”社会の静と動”がコンセプト)を裏付ける目的もあったのです。一組のダンサーがこのようなインパクトの強い作品にインスピレーションを与えるとは、誰が想像できたでしょうか?
異なる分野や媒体から影響を受け、アイデアを掛け合わせることは、インスピレーションを得るためのもう一つの方法です。ウェス・アンダーソン監督の作品は、デザイン、建築、音楽、アーカイヴ写真など、さまざまな美術分野からインスピレーションを得ており、このことをよく表しています。シンメトリーなライン、ノスタルジックなパステルカラー、美しいビジュアルコンポジションなど、アンダーソン監督の特徴的なスタイルは、彼のユニークな視点を通して、さまざまな分野に焦点を当てた結果です。
ファッション業界もまた、さまざまなソースからインスピレーションを得て革新を続けている分野です。科学、自然、建築、磁器、そして食べ物など、あらゆるものが新しい創造的アイデアの出発点となります。そして、そこから融合し掛け合わしていくと、魔法のようなことが起こるのです。ロンドンのファッションデザイナー、ニコラス・デイリーは、自身のジャマイカとスコットランドのルーツからインスピレーションを得て、さまざまなジャンルの音楽や文化を用いて、独自のコレクションを作っています。彼の作品は、自身の情熱とアイデンティティを示すと同時に、彼の個人的な考えに共感するコミュニティに語りかけています。
分野を超えた掛け合わせは、必ずしもクリエイティブな突破口を保証するものではありませんが、アイデアを組み合わせることで、視野を広げ、頭を働かせて、形の見えにくい配置や可能性を発見する糸口になるでしょう。
独創的で、役に立たないものを発明する日本の「珍道具」は、上記で述べたことをを象徴しています。全く異なるオブジェクトを掛け合わせ、機能的制限に挑戦するのです。わかりにくいですよね?トイレットペーパーを思い浮かべてください。次に帽子を思い浮かべてください。この2つを組み合わせることで何か良いことがあるでしょうか?珍道具の実例をあげれば、「花粉症帽子」という発明が生まれています。他にはないくらい速く鼻を拭くことができるというのです。また、みんなが欲しい「掃除シューズ」もあります。片足には小さなほうき、もう片足には小さなちりとりが付いていて、お掃除がとても楽になります。このように、バカバカしいけれど大人気の発明品から、役に立つ革新的なアイデアを生み出す素晴らしいリソースをみなさんにも持ち帰ってほしいのです。非実用的ではありますが、思考の自由と創造的思考を促進するものです。小さな革新のための独創的な最初の取り組みなのです。珍道具はユーモアに溢れ、気まずさを恐れず、見事にこれを実現しています。
今度、インスピレーションが得られないと感じたら、あえて枠の外に目を向け、自分の想像力の限界に挑戦してみてください。自分のコンフォートゾーンを超えてインスピレーションを求め、興味を惹く小さなことを探してください。意外なつながりに目を向け、創造的なラインを曖昧にする実験です!結局のところ、インスピレーションは現実をスローダウンさせる完璧な方法であり、人生を観察し、予期せぬものの中にある美しさを教えてくれるものなのです。